乗鞍本番(前編)
【mixi日記 及び 旧ブログ から転載したものです】
「乗鞍受付日」からの続き
8/31(日)はAM4:00起床。いよいよ乗鞍の本番だ。2階の家族部屋から、大部屋のある1階に降りていくと、すでに起きている仲間がいた。
「天気どう?」
「行けそうですよ。星、出てます」
少なくとも、今は雨は降っていないし雲の切れ間もあるようだ。昨夜は寝汗がひどく途中で着替えたり、何度も尿意に目が覚めたりと寝不足気味だが、そう悪い体調ではない。取りあえず寝汗の分、麦茶をがぶ飲みして水分補給したら、お腹が動き出したので軽量化(トイレ)。着替えやヒザのテーピング、ドリンク(ヴァーム)の準備などをして、5:00から朝食。
和食ということもあり、食べすぎると走行中に苦しくなるので、ご飯は茶碗に7分目ほど。天候が回復に仲間の意気も上がっている。食後、明るくなった外に出てみると、雲は多めだが、乗鞍岳も山頂付近に少し雲がかかっているがはっきり見える。気温も寒いほどだった昨日のことを思えばかなり上がっている。この調子で天候が持ってくれれば言うこと無しだ。
出走前に、タイヤの空気圧を調整。試走でTUFO S3 Liteは10気圧でも柔らかめだったので、12気圧に上げようとしたが、手持ちのポンプのエアゲージの目盛りは11気圧まで。目盛りを振りきって、この辺だろうというところまで注入した。走り出した後で感じたが、(約)12気圧でも、昨年まで使用していたPanaracerやIRCのクリンチャー決戦タイヤより、クッション性の高い乗り心地だ。未体験の高気圧なので躊躇してしまうが、MAX15気圧対応のタイヤなので、決戦用ならもう一段気圧を上げてもよさそうだ。
空を見上げていると徐々に晴れ間が増えているようだ。天気予報でも昼までは回復傾向とのこと。よしこれなら、とツーリストの証であるマッドガードも外すことにした。これでツーリストらしいところは革サドルだけになってしまった。なりふり構わぬ軽量化(ただし低予算)が少しでも良い結果につながって欲しい。
猛虎旗の覆いを外し、ステムにスピーカー&MP3プレーヤーを装着し、タイガースハッピを羽織って準備完了。6時過ぎに番所の宿を出発。今年は私を含め、仲間のほとんどが自走でスタート地点に登ることになった。昨年までは、本番前にいきなり10%の登り坂が立ちはだかる道を、標高差200mも登ることに躊躇していた。しかし、毎年乗鞍では脇腹痛に悩まされることもあって、アップがてら身体を動かしておこうと思ったのだ。
他の自走メンバーについていくと、恐れていた県道84号線直登ではなく、いがやスキー場内の道を迂回して登ることになった。傾斜もさほどではなく、車もほとんどいないので思ったより走りやすい。ところが、周りの仲間と比べて、私の呼吸がかなり早くなっている。
血中ヘモグロビン値がかなり低く、高標高の低酸素に弱いことは自覚しているが、スタート地点まで登っても標高はまだ1400mくらい。平地とそんなに差があるとも思えないのだが・・・。お腹を腰痛サポーターで締め上げているのも理由かもしれないが、いささか不安になる。
6:30前頃、スタート地点に到着。すでに人と自転車があふれ、今年も3000人を遙かに超える坂バカがこの一ヶ所に集まって来ている。仲間と合流したり、下り用の防寒具などを詰めた荷物を運搬バスに預けたりしているうちに出遅れ、今年はグループのかなり後方に並ぶことになった。参加者の多い36~40歳の部(男子D)は2グループに分かれているが、それでも下手をすれば先頭よりスタートが数十秒遅れてしまう。
スタート地点で約1時間半待機することになるが、幸いなことに防寒着が必要なほどではない。とは言え、昨日が寒かったので、長袖ジャージやロングタイツを着ている人もおり、参加者の格好がバラバラ(私はハッピ着てるし・・・)。
今年は開会式もシンプルな感じで、ゴール地点の中継をしていた大型ビジョンもなくなった。毎年インタビューを受けていた身としては少し残念だが、そんなところは本来自転車レースとしてあまり重要なところではない。大多数の参加者にとっては、誘導や安全確保など、走りやすい環境作りの方が大事だろう。
スタートを待ちながらふと気付くと、足首の靭帯を痛めているK原さんは左足にラバーサンダルを履いている。聞くと、包帯等で足首を固めているので普通の靴が入らないそうだ。ってえことは、昨日はそれで雨の中上高地まで登ってきたんですか? で、今日は標高差1260mを、それで登るんですか? タフだ、この人・・・。
いよいよスタートが迫り、前グループの後について、スタートライン後方へ。前のグループが2分前にスタート。ハートレートモニターをリセット、車載スピーカーのスイッチを入れ、MP3プレーヤーの準備。そしていよいよAM8:02、我々「男子D(2)」スタート。
案の定、スタートラインを越えるまでに約20秒かかってしまった。これは惜しい。スタートと同時にMP3プレーヤーの再生ボタンを押し、六甲颪を流し始めたが、スタート直後は会場のスピーカーの音量が大きくて、周囲にはほとんど聞こえていないだろう。
スタートから50mほど先でヨメさんと子供らが応援してくれていた。娘の「お父さんガンバレ!」の声援は何よりの励みだったが、後で写真を見ると、娘は私が過ぎるとすぐに、自分を撮影してもらうためにカメラの方を向いていた・・・。
序盤は沿道からの声援も多く、あちらこちらから「阪神ガンバレ!」「タイガース、ガンバレ!」と声がかかる。私の格好を見て目を丸くしている人もいる。これが快感なのだ。
走りの方は、スタート直後は身体の調子を確かめるように抑えて走り、徐々にペースを上げていった。プライドを捨てた軽量化の甲斐あってか、思ったより軽快に走れる。
残念だったのはハートレートモニターがまともに動作しないこと。どうやらホイールマグネットがずれてしまったらしく、時速などの走行データを計測できない。時々、思い出したように動いては沈黙(Pause状態)。心拍数は表示されているが、ターゲットゾーン(本番では165-178に設定)から外れても、耳での確認はできない。タイムロスが惜しいし、ペースが乱れるので停車してマグネットを調整するのは諦めた。
お蔭で、逆に開き直ったというか、身体と対話しながらのペース作りに専念できたかもしれない。当初はハートレートモニターを活用して身体への負荷を一定にすることを考えていたが、スタート前の自走ですでに息が上る体験をして方針変更。少しでも空気の濃い前半に少しでもペースを上げることにした。
とは言え速度がわからないので、正直なところ自分がどの程度のペースで走っているのよくわからない。あまりにひどかった昨年よりは、ましなペースだと思うが、第1チェックポイントの時点で、すでに脚にかなり疲労がたまっていた。息もかなり荒い。「去年ほどやないけど、調子悪いなあ」と思いながら給水所を通過。ちなみに、ペースを乱したり、接触などのトラブルの多いので給水所はできるだけ使わない。今年も大サイズボトルに薄く溶いたヴァームを入れている。
徐々にきつい傾斜が現れ、ギアはしばしばフルインナーに突入。前26×後24Tの反則ギアだが、腰痛で強く踏み込めない私にはこれでもキツい。「中間点」の看板を見たときには、苦しさに「まだ半分かいな。ペース落とさんと保たんかな?」との思いもよぎった。
ところが、どうも様子が変だ。毎年タイガースはっぴを羽織り、六甲颪を流しながらという参戦に憶えてくれている参加者も多いが、「今年は早いね。前はもっと下で抜いたのに」とか、「やばい、もう追いつかれた。今年速くないですか? オレが遅いのかなあ」だの、私をペースの目安にしていた何人もの参加者から驚きの声が掛かるのだ。
どうやら自分で思うよりも、結構いいペースで登っているようだ。とは言え、どの程度かはよく分からない。ペースを乱さないように、あえて腕時計も見ないようにした。とにかく、自分の身体と相談しながらベストを尽くすだけだ。
目立つ格好なので、私も声を掛けられることが多いが、今年も出会った同好の士。前方にママチャリに乗った横しまの帽子とシャツを発見。ママチャリなのに、なかなか追いつけない。普通のロードバイクなら相当速いだろう。ようやく追いついて「今年は囚人ルックですか?」と声を掛けると、「『ウォーリーをさがせ!』です(苦笑い)」との返事。・・・失礼しました。しばしエールを交わして先行した。
ややオーバーペース気味に登ってきたが、後半になるとさすがに身体に疲れがたまってくる。何より呼吸が苦しい。コース中最も傾斜のきつい、冷泉小屋近辺のつづら折りにかかると、徐々にペースが落ち始めた。傾斜が少しゆるくなったところで気合いを入れてみたが、いつもの脇腹のけいれんの兆しを感じた。慌ててペースを落とし、呼吸を整える。
大阪近辺で何度峠を登っても、脇腹痛に襲われることはない。なぜか、乗鞍を登るときだけ起きる謎のけいれんで、入念な脇腹のストレッチや、朝の自走によるアップも効果がなかったようだ。大阪近辺では、こんなに長時間登り続けるコースがない、ということもあるかもしれないが、高標高地の酸素不足で呼吸が荒くなるのが大きな原因ではないかと想像している。こればっかりは、低山ばかりの関西では鍛えようがない。
脇腹を意識しながら、だましだまし登り続けて、ようやく第2チェックポイント位ヶ原山荘。ここの給水所も素通り。ここからは傾斜は少し楽になり、森林限界を超えて高木の姿がなくなり、景色が開けてくる。しかし、酸素は平地の3/4くらいになって、血中ヘモグロビン値の低い私には急傾斜より過酷な環境だ
「乗鞍本番(中編)」に続く