台北自転車事情
【mixi日記 及び 旧ブログ から転載したものです】
前回の書き込みの通り、この3/13-3/16に開催された台北サイクルショー(Taipei International Cycle Show /台北国際自行車展覧会)に行って来た。もちろん遊びではなく、輸入代理店である勤務先の仕事だ。
今回は、会場が台北世界貿易中心南港展覧館(Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall)に移った。完成したばかりの真新しい建物はきれいだが、MRT(地下鉄)の最寄り駅も未完成(2009年末完成予定)で、交通手段はバスかタクシーになる。初日はMRT昆陽駅から、路線バスに乗ったが、後で無料のシャトルバスがあることがわかった。この辺は始めての開催地で、ウェブや招待状でも充分な事前情報を主催者がまだ提供できていない。来年以降は徐々に改善していくだろう。
ここ数年、台湾の自転車業界は斜陽気味で、知人と会っても「大して目新しいモノはないですね」というのがお約束だった。ところが、今年は新業者の出展や変わった新商品が目に付き、例年に比べて「面白い」ショーだった。特に、ライトやキャリア、バッグ類などのパーツ、アクセサリー類に興味を惹く商品が結構あった。ただ、個別の商品については仕事とも関わる部分なので、詳しくコメントはできない。
仕事との関わりが薄い完成車に関してはじっくり見ていないので、正直詳しくは分からない。元より欧米の完成車メーカーの出展はほとんどなく、台湾メーカーはほとんどOEM供給メーカーでジャイアント、メリダ、ダホンなどの一部メーカーを除けばメジャーブランドはないと言っても過言ではない。パッと見た限りでは、とんでもない新アイディアは目につかなかった。
完成車の全体的な傾向としては、相変わらず小径車は人気。MTBよりロードバイクが目に付くのはここ数年変わっていない。ただ、フラットバーロードの展示が激減していたのは意外だった。
素材としては、アルミの影が薄くなり、カーボンはもはや当り前の存在。一方で、昨年からトラディショナルなスタイルの自転車が目に付いていたが、今年はかなり多数のフレームメーカーや完成車メーカーが装飾的なラグを用いたクロモリ製フレームを展示していた。
スチールの乗り心地の良さが見直されているという話もあるが、単にそれだけであれば装飾的なコンチネンタルカットやメッキを用いる必要はない。恐らくは、早さを追い求めるばかりではなく、のんびりしたツーリングや、ファッションとして街乗りを楽しむ人が、世界的に増えているのだろう。ともあれ、20年来の愛好家としては、かつて憧れた古き良き自転車の姿を感じさせる展示に、感慨深いものがあった。
余談だが、阪神ファンとしては黄と黒のカラーの組み合わせに、つい反応してしまう。会場で見かけた2色ツートンのロードバイクを撮影した。いつになるかわからないが、次のフレームを作るときには、こんなカラーにできるといいなあ。
話は変わるが、台湾では自転車産業に対しての国家的な後押しが凄い。この台北ショーも「中華民國対外貿易発展協会」が主催するもので、日本のような民間企業の主宰ではない。ツール・ド・台湾の最終ステージがサイクルショーに合わせて催され、初日の夜には歓迎レセプションがあり、様々な出し物と共に、無料で食事が振る舞われる。
しかも、今年は乾杯のあいさつと共に、何百発も花火が打ち上げられ、昼間も海外からの来訪者に限り、無料の軽食コーナーが設けられていた(もっとも食べ物はすぐ無くなってしまうが)。出展している台湾企業を通じて、海外業者に宿泊費や接待費を支給するなど、主催者の気合いの入れ方が例年にも増して凄まじかった
ショー以外でも、行政が自転車スポーツの振興に努めていることが目についた。年々台北近辺のサイクリングロードが伸びていることは知っていたが、何と今年はMRT(地下鉄)に自転車を載せることができる制度が始まっていた。土日祝日だけだが、路線図に自転車マークの着いた駅で、自転車と一緒に乗り降りできるのだ。最終日(3/16)には実際に自転車を載せているライダーを見かけ、写真を撮らせてもらった。
こうした後押しもあってか、5~6年前と比べると、街中のスポーツバイクの姿がかなり増えており、土日には一般ユーザーのショー来場も多かった。日本のサイクルモードと比べれば、まだまだ一般ユーザーの姿は少ないが、人口比で考えると愛好者の割合は日本以上かもしれない、との話も出た(台北の人口は約2300万人)。
「世界の自転車工場」と言われる台湾も、かつて同じ呼称を受けた日本と同じく、より低コストで生産可能な地域(中国)に押され気味だ。残念ながら、日本からはシマノなどのごく一部を除いて、世界的な自転車関連メーカーはほとんどなくなった。日本から自転車工場の座を奪った台湾は、日本と同じ轍を踏むまいと官民挙げて必死で自転車産業の振興に努めている様子が伺える。
日本自転車普及協会も競輪収益金の補助を受け、それなりに豊富な資金を持つようだが、台湾の(なりふり構わぬ)公的サポートにはとてもかなわない。思うに、台湾にとっての自転車産業は、日本にとっての自動車(4輪車)産業と同じくらい重要度が高い産業なのだろう。昨今は日本でも自転車ブームとなっているが、行政の必死さがまるで違う。消費地としては伸びていくかもしれないが、自転車製造拠点としての日本の復活は当分なさそうだ。
もっとも、台湾がいくら頑張っても、「世界の自転車工場」の座を守ることは容易ではない。台湾の自転車関連メーカーでさえ、低コスト生産が可能な中国にどんどん工場を移している。中国の人件費上昇や終身雇用の強制化といった逆風も吹いているが、製造の中国への移行という大きな流れを変えることは難しいだろう。
残る道は、日本のシマノや欧米の有名ブランドのように、開発拠点として生き残ることだ。そのためには、実際に自転車に乗って楽しむ文化が育っていないと難しい。そうした意味で、台湾の行政が自転車スポーツの振興に努めていることに、一縷の望みを期待できるかもしれない。
何度目かのブームを迎えているとは言え、日本ではスポーツとしての自転車への理解度はいまだ低く、文化として定着しているとは言い難い。これが自転車の開発拠点としても日本が生き残れなかった理由のひとつだろう。
もっとも、日本では世界最大の普及率を誇るの婦人用軽快車(いわゆるママチャリ)のお陰で、「日常の足」としての側面ばかりが一般的になり、『スポーツ』としての自転車が理解され難いことも大きいのではないかと思う。もうひとつは競輪があまりに有名なため、「自転車競技=ギャンブル」という印象を持たれがちだったことも、一般に理解されるのが遅れた理由のひとつだろう。
ここ10年ほどで日本でも自転車スポーツの普及がかなり進んだ。これがもう10年早ければ、もっと多くの自転車企業が日本で存続していたかもしれない。別の話題だが、業者中心の東京国際サイクルショーが、どうやら昨年の第18回(Tokyo Bike Bizと改名)で最後になった(今年の開催情報がいまだにない)。一方、ユーザーショーであるサイクルモード(東京・大阪)は年々来場者を伸ばしている。日本が自転車を作る側から買う側に回ったことを象徴的に示す事態だと言えるかもしれない。サイクルショーを見ていると、各国の自転車動向が伺える。