四代目は 夏に吼えるか 猛虎號 [新フレームオーダー]
スチール製オーダーフレームの愛車「猛虎参號」には、気が付けば20年間乗り続けている。メーカーランドナーの「猛虎壱號」が1年ちょい、初めてのオーダーフレーム「猛虎弐號」が2年半で乗り換えていたので、猛虎参號も3年くらいで乗り換えだろうと思っていたが、どうしてどうして。
製作当時は入門クラスのロードレーサー(当時はロードバイクという呼び名は無かった)なんかには負けない軽さだったし、700C車輪を採用してファストライドからダート走行まで幅広い用途に使えるように設計したので、多少乗り方が変わっても乗り換える必要がなかった。
10年も経つとさすがに世間一般の自転車と比べて見劣りするようになったし、ノリクラへの参戦を始めて、軽い自転車が欲しくなった。当然、乗り換えも考えたが、すでに結婚して子供もできていたので金銭的余裕はなく、少ない予算で購入できる自転車ではスペックが気に入らないし、アルミやカーボンのロードバイクは一様に乗り心地が悪くて、とても乗り換える気にならなかった。もちろん、ノリクラ専用に1台購入するなど到底不可能。
結局、今に至るまで使い続けることになったが、さすがにこの数年は限界を感じていた。フレーム各所の塗装が劣化して剥がれだし、剛性不足も感じてきた。自分のスキルが上がって剛性不足を感じるようになったのならうれしいが、恐らくは通勤等に使用している他の自転車との比較で感じるようになったのか、ひょっとするといくらスチールといっても20年の酷使でさすがに「ヘタリ」が起きている可能性もあるだろう。
そんなこともあって乗り換える自転車を何にするか考えていたが、昨年辺りから次の自転車もスチールオーダーフレームにしようと決めた。お金に糸目を付けないなら他の素材でもっと軽くて乗り心地の良い自転車はあると思う。とは言え、子持ちのお父さんが現実的出せる金額を考えると、入門クラスのロードバイクがせいぜい。一方、スチールフレームなら丈夫で長持ちするし、これ以上流行遅れになる心配もない。なにより、オーダーフレームなら、自分好みの世界でただ一台の自転車を創り上げることができる。
ただし、スチールでありさえすれば良いわけではない。猛虎参號以外にも、同じタンゲNo.2で組んだ吊るしのロードレーサー(LIBRA号)を持っていたが、乗り心地はまるで違った。剛性が高く、確かに早く走れるのだが、長距離走ると疲れきって余力が残らない。少しでも早く走ることが目的にしたレース本番ならそれがよいのだろうが、長距離走るメインバイクにするには至らなかった。
一方、猛虎参號は平地のダッシュなどで剛性不足を感じることもあるが、不思議と上りではそれを感じない。元々低トルク高回転型のペダリングスタイルだし、フレームがたわみ、元に戻るリズムを身体が憶えていたのだろう。何より長距離を走った時の疲労感が軽く、ツーリングなどでは走行後の重要行事である反省会(宴会とも言う)にも、余力を残して参加できる。
いずれにしても、設計やビルダー次第で全く同じスチール素材でも、全く別物になることは体感している。最近のスチールバイクブームではその辺の事情を無視して「スチール=乗り心地が良い」とひとくくりにされている傾向があるので、警鐘を鳴らしておきたい。
余談はさておき、用途ごとに自転車を用意するのが難しいので、1台で多用途に使える仕様を今回も引き継ぎつつも、猛虎参號よりはややレース志向にシフトさせて、オンロード専用にすることにした。腰痛持ちとなった今となっては、ダートで押し担ぎをする機会も当分無さそうだし。
4月に猛虎参號で転倒し、継続使用に不安を感じたこともあって、フレームの新調を急ぐことにした。猛虎参号は学生時代に埼玉のビルダーさんに作ってもらったが、遠すぎて現行車を持ち込んで相談するのが難しい。大阪近辺で顔を合わせて相談できるビルダーさんがいないかと思っていたが、今のところ顔見知りの方もいない。唯一接点があったのがfacebookで友達になっていただいた吹田の自転車工房エコーの 店長、唯陸奥男さん。
ブログやfacebookで次々と公開されるフレームは、型にはまらずユニークなものに思えたし、エンスーな床の間自転車ではなく、「乗って楽しい」親しみやすい仕様の自転車が多かった。
ルネルスやTOEI系のラグジュアリー自転車も決して嫌いではないが、当面そんなものを作って活かす余裕はない。床の間自転車は老後の楽しみに取っておいて、今はとにかく気を使わずにガンガン走れる自転車が欲しい。そんな私の希望にも合うように思えたし、facebook友達になったのも、何かの縁。「訪問して相談したい」とは言ったが、即日オーダーする気で連絡した。
勝手にまとめたオーダーシート(1,2)と構想メモを持ち、猛虎参號に乗ってエコーさんに押しかけたのが7/8(日)。直接お会いするのは初めてだったが、唯さんはにこやかに迎えてくれた。
ニュータウンの一角にあるご店舗は10年になるとのこと。一般車もスポーツ車も扱われている比較的小規模な店だが、すっかり地域に根付いておられるようで、次々と常連さんや修理客がやってくる。
店内の一角はフレーム製作用の治具が据え置かれた工房があり、見本代わりのフレームや完成車も展示されている。唯さんやお客さんの手によるプラモデルや、ウクレレも展示されており、根っからモノ造りが好きなお人柄が伺えた。
来客の合間に相談を進め、基本的な希望を伝えていった。
- 普段はリアキャリアと大型サドルバッグ、マッドガードを装着してトレーニングやツーリングを行い、ヒルクライムレース参加時には上記装備を外して軽量化する(レース時のみフォークをカーボン製に交換することも検討)。
- 700Cホイール、サドルバッグ用キャリアという仕様は現行フレーム同様。ただし、使用目的はツーリング主体からレース(とトレーニング)寄りに少しずらす。ヒルクライムレースを早く上れる軽量化と剛性向上を実現したい。スモールサイズのサイドプルブレーキの調整幅を目一杯活かすクリアランスに設定して、700×23Cタイヤ使用時にマッドガードを装着したい。
- 現行フレームよりキビキビ走れる「軽量化と剛性向上」を希望。ただし、他の新素材でなくスチールにこだわるのは、乗り心地の良さと、寿命の長さ、飽きの来ないスタイルが魅力だから。従って、ただ単にガチガチの剛性にするのではなく、ツーリングでも使いやすい、ほどほどの剛性にお願いしたい。既製品で言えばロングライド用ロードバイク的な乗り味を希望。
- 長く乗り続けたいと思っているので、今後もパーツ供給が途絶えることがない標準的な規格を基本としたい。
かなりわがままな要求であるが、唯さんは前向きに検討していただき、猛虎参號を採寸して比較しながら話を詰めていった。オーダーシートには一応の寸法を記入しているが、素人がロングライド系ロードバイクの既成品を参考に考えたものなので、強いこだわりはないことをお伝えした。
ヘッドについては現在主流のオーバーサイズ(1-1/8インチ)インテグラル化を狙っていたが、ヘッドパイプ以外とのバランスを考えてノーマルサイズ(1インチ)にすることに。アヘッド化のみ果たすことにした。
唯さんが主に採用しているのは台湾パイプメーカーエコーのクロモリチューブ。唯さんによると熱処理施した「ストロングライト」パイプを採用しても、軽量化効果は限られるし、薄すぎて凹みやすいというデメリットもあり、価格増に見合うだけのメリットを実感しにくいとのこと。多くの場合スタンダードパイプで製作されるようだったが、坂好きとしてはやはり少しでも軽いものにしておきたい。ここはわがままを通して、ストロングライトパイプを採用することにした。
ラグについては猛虎参號同様にイタリアンショートポイントのつもりでいたが、こんなのどうです? と唯さんが見せてくれたのがコンチネンタルカットのシートラグ。ロストワックス製で、集合ステーの受けがあるタイプ。残り少ない在庫だそうだが、せっかく高価な焼入れパイプを使ってくれるから、とのこと。高級感が増す思いがけないプレゼントを、ありがたくお受けすることにした。
その他、リアキャリアやマッドガードの装着方法について色々話したが、最終的には現物合わせということで、唯さんにお任せした。
塗装については、イエロー一色で考えていたが、当初覚悟していた予算よりは安くつきそうなので、ブラックを交えた2色構成を検討することを考えている。具体的にどう塗り分けるかはフレームを作製している間に検討することにして時間をもらった。
私を知る人はおわかりだろうが、これはもちろん阪神タイガースカラー。他にない自転車を実現する私なりのやり方だが、大阪以外のビルダーさんには頼みづらいし、大阪でも自転車にプロ野球の要素を持ち込むことを嫌う方もあるだろう。
そんな私のふざけた要望も、唯さんは笑って受け入れてくれた。というか、唯さんと常連さんが、
「白をベースに青と赤と、あとは黄色を入れるんだったけ」なんて話をしており、
「?」となった私に
「実はこれが78号機なんですよ」
ますます「??」な私だったが
「ガンダムですよ」
そうそう、初代ガンダムの型式番号はRX-78なのだ(笑)。うーん、タイガースカラーにしてしまっていいのだろうか? ちなみに百号機(百式)はお店の展示用に作製し、金色になる予定だそうです。
大まかなプランを決定したところで失礼したが、気が付けば約3時間の滞在。オーダー以外の自転車談話でも盛り上がり、時間を忘れてしまっていた。
その後も細々した確認作業をやり取りしながら、進行していただいている。フレーム製作に1ヶ月かもう少しかかるそうなので、それまでにカラーリングを決める必要がある。塗装を終えて完成するのは1ヶ月半後くらいだろうか? 例え早めに完成したとしても、組み付けや、ポジション合わせ、そして慣れるための時間を考えると、今年のノリクラに新車『猛虎四號』で参戦するのは止めておいたほうが良さそうだ。
来年のノリクラに向けて、1年かけて完成度を高めていこう。