娘の入学祝い [CARACLE-S 2016 組立て編]
好きなことを商売にしているのだから仕方ないが、自転車業界なんてヤクザな稼業の父親としては、娘が公立高校に進学してくれたことは非常にありがたかった。受験で頑張ってくれた娘だが、加えて(交通費の節約のために)片道6kmほどの距離を自転車で通学すると言ってくれた。これは入学祝いを少々奮発しなければ、と思ってはいたが、「ロードバイクが欲しい」という娘の希望には、正直驚いた。
小学生の頃は一緒にノリクラに出場したりもしていたが、中学で陸上部に入って土日も練習となれば、ノリクラ出場やトレーニングもできないし、本人も消極的。これまでの自転車が小さくなって買い換える際も、「ママチャリでイイ」とすっかりスポーツ自転車から離れていた。
通学で坂があるからと言っていたが、そんな娘がスポーツ自転車に再び目を向けてくれたのは嬉しいことだ、あえて変速なしのママチャリに乗せていたことが、功を奏したようだ(笑)。急がば回れ?
とは言え、(安全面で問題のない)ロードバイクとなればお値段も張るので、過酷な通学用にはもったいない。クロスバイクで妥協してもらう、ということもちらっと考えたが、スポーツ車に乗せるならやはり自社商品に乗せたい。
上司に相談したところ、「たまに父娘で活用してもらえれば」と、サポートを快諾。世界最小の折りたたみサイズと優れた走行性能が売りのCARACLE-Sを、使わせてもらうことになった。娘には「モデルになってもらうことを条件に、長期貸与してもらえた」と伝え、今後の協力を穏やかに要請(強要?)。父娘で輪行ポタリングという世の父親にとって垂涎のネタを率先して実現し、ビジネスに繋げていこうという企業人としての長期的視野に基づいた戦略だ(単なる個人的願望という話もある)。
長い前置きだったが、娘の通学用(兼、たまの週末ツーリング)CARACLE-Sの組み立てスタート。4/5から定時後に少しづつ作業を進めていった。
ベースは前年モデルのCARACLE-S 2016 スポーツパッケージだが、できるだけ難有り品や社内の余剰パーツを使用する。
メインフレームは、塗装不良で出荷NGになったフレーム。車体中央の折りたたみ部分の下部の塗装が剥げていたので、近似色の塗料でタッチアップしておいた。近づけばわかるが、遠目には目立ちにくいだろう。
フォークも出荷NG品。内部に切粉か溶接カスが入ってしまいカラカラ音がするが、走行中に聞こえるわけではないし実用上問題ない。
後部折りたたみ部分(社内では「小BB」と呼称)にはアルミの固定具を挿入する。
軽量化ということもあるが、サビやすい鉄を極力使用しないのがCARACLE-Sの仕様。フレーム周りのオリジナルパーツは、ほぼ鉄以外のアルミ、ステンレス、チタンなどを採用している。
シマノ等の外部メーカーから調達したパーツも、できるだけ鉄を避けている。もちろん鉄以外の材質が難しいパーツ(チェーン、リアスプロケット等)もあるし、特に付属ボルトなどは鉄製のものが残る。
短いシートチューブを保管するサポートバー(SPバー)部分の組み立て。
試作車に着いていたサスペンションを再活用し、軽量化の検証のために内部を削ったサポートバーにシートポストを咥える爪(サポートクランプ)やQRレバーを組み付ける。
ここも、露出した部分に鉄部品はなく、アーレンキー(ヘックスレンチ)が刺さったボルトはチタン製。ひょっとすると、サスペンションの内部には鉄製パーツがあるかもしれないが、密封された容器の中なので、水に濡れてサビることはないだろう。
サポートバーをメインフレームに装着。この固定ボルト類も、サビないステンレス製。
画像の挿入途中のボルトはサスペンションの付属品のため、フレーム周辺では数少ない鉄製。すでに用意されたボルトを破棄するのもエコじゃないし、コストアップにもなるので、パーツメーカーが用意しているものはそのまま使用している。
仮のシートポストをセットして具合を確認。
これも試作車に装着したものを再活用。
ヘッドワン装着工具は、短いヘッドチューブに適応した加工品。一般的な工具は、シャフトが長すぎてハンドルをぐるぐる回すのが大変なのだ。
CARACLE-Sはヘッドパーツもベアリング以外アルミ製で、軽量でサビない仕様だ。
ハンドルポストを装着。2017モデルではヘッドボルトとヘットキャップが一体化して大径化しているが、2016モデルはアルミ製ヘッドキャップを(スポーツパッケージだけだが)チタンボルトで固定する。
画像はチタンボルトが手元になく、仮に標準仕様用のステンレスボルトで固定したものだが、後でチタンボルトに交換した。
チェーンホイールを装着。CARACLE-SではSORAグレードのPCD130クランク、シマノFC-R350のインナーギアを外してアルミ製フィキシングボルトで固定し直した52Tシングル仕様を使用している。
これも以前、私がCARACLE-S 2015試作車で使用していたものを再活用。
CARACLE-Sのブレーキ本体は、ショートVのシマノBR-R353。これは新品だが、固定ボルトは私のTORACLE(虎来る號)をチタンボルトに換装して余ったもの。
固定ボルトやスプリングには残念ながら鉄製パーツが使用されている。上位グレードのBR-573は固定ボルトがチタン製のようだが、価格は3倍以上するので、採用は簡単ではない。
CARACLE-Sのホイールはスリーブジョイントの軽量リムに、日本製シールドベアリングのハブを採用し、前後で1200gを切るという本気の軽量ホイールセットだ。タイヤはパナレーサー ミニッツ・タフ(20×1.25)で、軽快な走りを実現している。
カセットスプロケットはシマノ CS-HG50-9S (11-30T)で、こちらは純正仕様の新品。
ブレーキシューの角度もセットアップ。大径リム主体で設計されているので、20インチリムにシューの角度を合わせるのは結構シビア。
ハンドルバーは純正採用品ではなく、社内に転がっていたグランジ製。
ハンドル幅が広いので後でカットするつもりだが、とりあえずはそのままブレーキレバー(Tektro R599/R725)とシフトレバー(シマノ デオーレ RD-M592)を仮装着。
グリップ標準仕様用だが、以前使用していたVELO製を再活用。ハンドルが肉薄の軽量タイプなので、エンドキャップがぶかぶか。さて、どうするか?
リアディレーラーは。これも私が2015試乗車で使用していたものを再活用。
プーリーをグリスアップして、関節に注油しておいた。
続いてブレーキワイヤーのセットアップ。試作品のブレーキ&シフト共用のリードパイプを、テストを兼ねて前ブレーキに装着。
リアもセットアップしてブレーキはセッティング完了。
先程の試作両用リードパイプをシフターにも装着し、シフトワイヤーもセットアップ。シフターに装着すれば、ワイヤーな流れがスムーズになり、傷みにくくなるだろう。
2017モデルの先着100台には、この試作リードパイプがおまけとして付属している。
雨の日は電車で通学すると娘は言ってたが、やむなく雨の中や雨上がりに走ることもあるだろう。本人と自転車を守るためにオプションの専用マッドガードを装着する。
これも、社内の誰かが使用していた中古品を再活用。まずはフロントガードを装着。
ガード本体とステーは純正品だが、ボルト類はプラスネジを排してすべてアーレンキーボルトに変更した。ちょっとしたことだが、整備性が上がるし、この方がモダンだ。
エンド装着ボルトは、皿ネジを採用して頭の飛び出しを減らす効果を狙ってみた。
私の調達したエンド固定ボルトが長すぎて、エンドの内側に飛び出してトップコグに当たりそう。チェーンが当たりそうな位置でもあり、遅くなったので一旦作業を中断した。
ここまでは平日夜に少しずつ進めてきた作業だが、娘の登校も始まる。取りあえずはママチャリで通ってもらうにしても、通学ルートは坂もある。一気に作業を進めるべく、今日は休業日に会社に出てきた。
と言いながら、雨で自転車に乗れなかったので、社内の休憩スペースに設置されたローラーに乗ってトレーニング45分。
ローラー下のダンボールを汗でビショビショにして、トレーニング終了。
まずは、本日装着予定のチェーンを脱脂。チェーンとフィルタークリーナーとプラボトルに入れてシェイクして、水洗い。洗剤でもう一度シェイクして、最後に水洗いをして乾かしておく。
中断していたマッドガード装着作業を再開。エンド固定ボルトの先端を削ろうと思っていたが、社内に短いステンレス皿ボルトがあったので、借用。無事にリアの右側も固定できた。
マッドガード側のステー装着ボルトも、アーレンキー式のボタンキャップボルトに交換。
ただ、スチール製なので、そのうちサビないボルトに交換したい。ここは振動が激しく緩みやすいところだけに、チタンやアルミを使うのはちょっと怖い。やっぱり、安価でトルクを掛けられるステンレスかな?
ほぼ乾いたチェーン(シマノ CN-HG53)を装着。
このチェーンは未走行だが、コネクト作業に失敗してプレートを傷めてしまったもの。ミッシングリンクを使うので、傷んだ1コマを抜いてしまえば問題なし。
標準仕様用の折りたたみ式のペダル(VP-F55)を装着。これも私の使っている2015試乗車に付いていたものを再活用。
スポーツパッケージにはもう少しグレードの高いペダルを装着したいところだが、通学用がメインなので、純正オプションのQRDペダルは着脱が簡単なので、盗難や紛失が心配だ。ひとまずこのペダルを付けておいて、おいおい考えう。
純正スタンドも装着。スポーツ車とは言え、通学用にはスタンドが無いと不自由だろう。
走るための機能はほとんど仕上がってきたので、折りたたみ機能のセッティング。
折りたたみ時の後輪位置を調整するボルトや、吸着マグネットの位置を微調整。折りたたみサイズを小さくするために各部の寸法がシビアなので、これは結構手間がかかる。
折りたたみも問題なくできるようになったが、この調整作業がほぼ無駄になることを、この時点の私はまだ知らない。
ともあれ、ちゃんと畳めてはいるが、ハンドルバーの幅が純正の520mm幅より、約60mm広いので、ハンドルが飛び出して折りたたみサイズが大きくなっている。
カットして幅を狭めるつもりだが、走行時のことを考えればポジションを増やすエンドバーくらいは装着したい。グリップやレバー類の位置は純正の520mm幅と同じ位置にして、その外側の位置にエンドバーを仮装着してシミュレーション。
そのまま畳むとタイヤにエンドバーが当たって、ハンドルポストをたたみきれなかった。
ハンドル固定QRを開放して、ハンドル角度を調整したり、ハンドルを横にずらしたりすれば、何とか畳むことはできる。
折りたたみ作業がちょっと手間だが、娘の体格を考えるとあまり幅を広くもしたくないので、ひとまずこの位置でカットすることにした。
純正バーの幅520mmの外側にエンドバーの装着幅15mmずつ残し、550mm幅にカットということだ。
この状態ではCARACLE-Sの売りであるスーツケース収納が困難になるが、当面この個体を飛行機に載せることもないだろうし、トレバッグ(純正輪行袋)に収める分には問題ない。
エンドキャップはエンドバーに付属のものも、ゆるゆる。とりあえず詰め物をして装着しておいたが、肉薄バーでも使用できるキャップを探そう。
最後にサドルとシートポストを組立作業用の仮のものから交換。サドルはひとまず以前私が使用していたVELO製のものを装着し、シートポストは新オプションのブラックカラーを装着した。
折りたたみの度に上下させるシートポストは擦れて色落ちしやすいので、CARACLE-Sの開発段階でブラックは一度は没になった。ところが、ブラックカラーの要望はかなり多く、2017シーズンから新登場となった(ただしオプション扱い)。
シルバーなら中古品もあったし、色落ちも目立ちにくいのだが、耐久性の検証のためにあえてブラックカラーを選んだ。・・・と言うのはほとんどウソで、やはり私も色使い的にブラックを採用したかったのだ。
色んな部分で追加作業が必要だが、これでひとまず走り出せる状態にセットアップできた。
ご注意:本記事は、久行の個人的趣味とテック・ワンの技術検証を兼ねて行っているもので、同様のカスタマイズに対して安全性や耐久性を保証するものではありません(自動車会社のF1やワークスマシンみたいなものと思って下さい)。安全性に問題がなく、ご要望の多いものは純正品に取り入れる可能性もあります。興味のあるパーツや加工については、ご意見をお寄せください。
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